第六話

「高耶、お父さんと仲良くするのよ」

大きな荷物を持って背を向ける、痩せたお袋の後ろ姿。
泣きながらお兄ちゃんと呼ぶ妹の声。
お袋に手を引かれ、たった一人の妹は玄関からいなくなった。

残されたのは親父と、自立も出来ないガキの俺。
二人のいなくなった生活はどこか現実味がなく、毎日がふわふわと過ぎていく。こんな毎日が永遠に続くのかと思うとゾッとした。
お袋も妹も、最初から全部なかったかのような薄ら寒い家。よそよそしい親父。

早く出ていきたかった。

この暗い家から、逃げ出したかった。

「少し出かけるから、留守番頼むぞ」

親父はそう言って、仕事以外でも帰ってこない日が多くなった。

一回だけ家に知らない女が来たことがある。化粧が濃く香水の匂いがキツいその女は、俺に見向きもせずしきりに親父と喋っていた。

その内親父は帰ってこなくなった。 最後の家族までいなくなった俺は、とうとう一人になったのかと、冷えた心の中で呟いた。

「これからはあなたの面倒を私がみるわ」

俺の手を握る叔母の小さな手。
久しぶりに会う叔母さんは、いつの間にか俺より背が低くなっていた。

同居の申し出を受けるがすぐ断った。言葉に詰まる叔母さんの寂しそうな顔。

でももう家族ごっこなんかしたくなかった。誰とも暮らしたくない。
疲れた頭は他人を拒み、思考を鈍らせる。
出て行ったお袋、幼い妹、俺を捨てた親父。
全部どうでもよかった。
それでもこの家族の跡が残る家から離れられない俺は、酷く哀れで惨めだと思った。

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